古民家の多くは伝統構法によって建てられています。現在の住宅は日本全国で目立って大きな違いはありませんが、伝統構法で建てられた家は建築当時の人々の生活や仕事、地域文化の影響を受け、間取りやつくりで大きな違いがあるのが面白さの一つです。
伝統構法は最も古い歴史のある建築工法ですが、現在残っている伝統構法の建物は木造住宅のわずか1%と言われています。
今回は伝統構法の特徴について見ていきましょう!古民家を見るときも見分けがつくとその貴重性が一層感じられるはずです。
伝統構法の特徴
伝統構法は木造軸組構法と言われる柱や梁などの骨組みに木材を使用する方法の一つで、1950年の建築基準法制定前に建てられた木造住宅に用いられていました。
大きな特徴は「石の基礎」「階層的な横架材」「免震的な構造」の3つがあります。そのつくりや使われている部材について紹介します。
伝統構法のつくりの3つの特徴
伝統構法を構成するものはたくさんありますが、下記はその一部です。
中でも大きな特徴は「石の基礎」「階層的な横架材」「免震性」の3つです。
石の基礎
現在の木造住宅のほとんどはコンクリートの基礎ですが、伝統構法は玉石や長石と呼ばれる自然の石を礎石に置きその上に柱を立てる石場建てと呼ばれる方法です。柱や梁も明らかに太く大きなものが使われます。
階層的に重ねられる横架材(横の構造材)
上の写真は福岡市の箱崎にある「天井桟敷」です。築150年のこの建物も横の構造材がたくさん使われています。太く大きな存在感ある木がこれでもかと並んでいるのはなかなか迫力があります。
揺れを吸収する免震性
現在多くみられる在来工法でつくられた家は耐震性を重視して作られていますが、真逆な考え方の伝統構法は揺れと共に建物も柔軟に変形する免震的なつくりになっています。構造だけでなく、土壁や瓦さえも崩れることで地震による外力を引き受け倒壊を防ぐ役割があります。
部材の特徴
伝統構法は循環型で持続可能な家づくりです。木材や土などその土地にあるものが使われる地産地消であり、再活用もできる特徴があります。
伝統構法のメリットとデメリット
先人の知恵がつまったつくりの伝統構法には構造以外にもたくさんのメリットやデメリットもあります。
伝統構法のメリット
- 夏は快適に過ごせる
- 地震の揺れを逃す免震性
- 地産地消・自然との共生ができる循環型建築
- 化学素材を使わない人の体に安全な材料
- 開放的な間取りで家の内外の人々とのつながりをもちやすい
- 間取りの変更ができるなど可変性に優れる
夏を中心につくられている伝統構法は木材や土壁などで調湿されてジメジメした暑さをやわらげてくれます。またそれらの素材はすべて天然素材で作られているため、ハウスダストなどのアレルギーも起こりません。
また、建具だけでなく柱さえも動かすことができたのが伝統構法です。これで行事や家族構成などによって間取りも変更することができました。柱を動かすことができる建築物は世界でも他にありません。
伝統構法のデメリット
伝統構法は建築基準法にその扱いの規定がされていないため、建築士さんでも学ぶ機会が少ない構法です。伝統構法が減ってしまった理由の一つでもありますが、その他のデメリットについても見てみましょう。
- 気密性・断熱性が低く、冬寒い
- 家長主義的、来訪者中心の開放的な間取りが現在のライフスタイルと合わない
- 室内が暗い
- 新築したりメンテナンスするための部材や職人が減少している
リフォームで解決できる部分も多いですが、部材や職人さんの減少はなかなかすぐには解決できない問題です。在来工法であれば金具に頼れるところを、伝統工法では特に作り手の職人さんの技術が不可欠です。
大工職人にしても左官職人にしても目の前の素材の癖など見分けることができなければひび割れや歪みや隙間だらけの家になってしまいます。技術を継承する若い職人さんたちを応援したいものです。
古民家のお店にもある!伝統構法の古民家を見つけよう
リフォームされている古民家再活用のお店などでは土台はコンクリートで補強されていたり、現在の在来工法にのっとって筋交などを入れて耐震されていることも多いと思います。それでも元々は伝統構法で建てられたかすぐにわかるヒントもありますよ!
築年数を尋ねてみる
まず、築年数が50年以上の木造一戸建てであれば古民家といえるでしょう。さらにそれが1950年以前であれば伝統構法の建物である可能性が高いです。
やたらと大きな柱や梁が見える
1950年以降の在来工法になると丸太の断面が14cm未満の小さい小径材(しょうけいざい)が使われるようになるため、それ以上の大きな木が使われていれば伝統構法の可能性があります。
古民家に行ったらぜひ探してみてください。
見直される伝統構法の強さ
伝統構法が広がったのは1600年代後半ですが、この免震性の高さからそれだけ昔から日本という国が地震に向き合ってきたのだということがわかります。そして文明が急速に発展した現代でも私たちはその問題を抱えています。
1995年の阪神・淡路大震災では多くの建物が損壊や倒壊しました。その中で傷みなどが少なく状態のいい伝統構法の建物は被害があまりなく、家財などの収容物も無事だったそうです。このことから免震性の有効性や安全性が実証されることになりました。現在高層建築物では耐震よりも免震が用いられています。
地震を起こらなくしたり地震から逃れることはできませんが、ある意味受け入れることで被害を最小限にしたのが伝統構法ではないかと思います。負けない!とかたくなに耐えようと踏ん張り続けていると人も建物もいつかはひずみが来てしまうものなのかもしれません。それよりも困難には向き合いつつ、吸収して受け流す柔らかい強さには憧れすら感じます。
<参考書籍・参考サイト>
川上幸生『古民家の調査と再築』一般社団法人住まい教育推進協会(2019)、隈研吾『点・線・面』岩波書店(2020)、川上幸生『古民家の雑学53』Amazon.com(2013)、院圧林業株式会社「小径木」