古民家にお邪魔するとまず出会う玄関。昔の玄関がやたらと段差が高いのでいつもどうしてだろう?と思っていました。今回はそんな玄関のルーツや古民家でもよくみるつくりについて紹介します。
玄関は元々寺院の入口という意味もあったそうです。急に神聖な雰囲気を感じますね!
伝統的な日本家屋の玄関の段差はなぜ高いのか?
最近の家の玄関は大体18cmくらいでそんなに高さは感じません。集合住宅だと10cmほどしかない家もあります。
日本の玄関に段差が生まれた理由はいくつかあります。
- 高温多湿なため、床を上げて湿気た土から離し風通しを良くしてある
- 玄関の段差=身分の差
- 履き物を脱ぐ場所であることのアピール
- ほこりや砂が入りにくい など
昔は食事も床に直置きだったので
汚れにくいことは大事ですね
明治以前は高貴な人しか玄関がもてなかったなどこうやって理由を見ると、現代家屋でそんなに高い玄関が必要でなくなったのがわかるような気がします。
玄関のはじまりは式台にあり
日本の玄関のルーツは現在の玄関の一部ともなっている「式台(しきだい)」です。
式台はもともと部屋の名前でした。室町時代(1336〜1573)の武家屋敷に取り入れられた書院造には入口専用の部屋がありそれが式台と呼ばれたのです。式台は公式のお客さんを迎える特別な入口部屋で、将軍への献上品をここで取り次いでもらったりしました。
当時の式台の入口には段差があり、駕籠を直接横付けしてこの段差に上がることで地面に降りることなく駕籠からそのまま建物の中に入ることができるようになっていました。式台に入っても身分によって座る位置が決められていました。
そんな玄関の空間ひとつとってもいろんな部位やそれぞれの役割があります。
玄関のつくり
写真は福岡県大野城市の穂積茶寮の玄関です。
1.土間(三和土・たたき)
土間は三和土とも呼ばれます。昔は外の続きで地面でした。昔はこの玄関土間が結構広く、農具や商売道具やかめなどの大きな台所用品などが置かれていました。
最近でも広い土間をわざわざ作ることもあり、おしゃれに自転車やアウトドアグッズなどを飾り置きするのに便利だと一部の人に静かに人気なのだそうです。
2.沓脱石(くつぬぎいし)
上の穂積茶寮の写真では板が置いてありますが、昔は石が多かったようです。履き物を脱ぎやすくしたり、履き物を置いておく場所です。縁側のそばにも置いてあります。
3.式台(しきだい)
式台は通常身分の高い人が使う公式な出入り口だったことは前述した通りですが、現在でも式台は玄関や座敷まで高さがある時に備え付けられる板敷を指します。
そもそも玄関自体が身分が高い人用に限られたため、古民家においては武家屋敷や侍屋敷、庄屋屋敷などにしかありません。式台も同様です。
式台は一枚の無垢板で作られ、奥行きもゆったりと幅広であることが多いです。そのため価値が高いものとなっています。
農家住宅の長式台
一般の農家では玄関はないため、土間から座敷へあがります。その土間から一段高くなった場所は長式台と呼ばれます。
長式台も一枚の無垢材が使われることが多いですが、上の写真のように式台に比べて奥行きが結構短いです。また、長式台の下がそのままあらわになっています。
4.上がり框(あがりかまち)
上がり框は式台と玄関(取次)や座敷の間にある化粧材の横木で、現在の玄関では玄関土間のすぐ上に取り付けられています。
足がよく当たったりするため、昔はヒノキやケヤキ、松などの堅い木材が使われることが多いです。また家に入った時に一番最初に視線が行きやすい化粧材のため、木目も美しいものが使われます。
御影などの石が使われることもあるそうです
5.取次(とりつぎ)
玄関でお客さんを迎える場所としてあったのが取次です。上がり框から座敷へと続く戸(舞良戸など)の間にあり、昔は畳が多かったようですが板間もあります。今は廊下と一体になっていることが多いです。お客さんを家人に取りつぐ場所だったんですね。
今回は玄関について調べましたが、基本的な構造だけでもこれだけ色んなことを考えて作られていたんですね!次回から古民家で玄関を見る目が変わりそうです。
玄関はなぜ大事な場所なのか
「玄関」は禅宗の言葉からきているそうです。「玄」は深淵な悟りの境地、「関」は入り口、関門という意味があり、「玄関」は深い悟りへの入口の場所という意味で使われていました。玄関はいつもきれいに掃除しておけとよく聞きますが、なんだか語源を知ると妙に納得します。神聖な場所だから汚してはいけないのですね。
心理学者のユングによると、人間は個人の記憶の他にみんな人類としての集団的無意識という潜在的な記憶をもっているそうです。誰に教わったわけでもないけど知っている、というようなことですね。私たちがみんな玄関の語源を知っていたり家族にしつけられたわけでもありませんが、でもなんとなく玄関はきれいにしなくちゃという共通意識が実は仏様の時代から仏教の国の記憶としてあるのかもしれません。
ちなみにもしかするとそんな集団的無意識からは外れ気味なのか、私の玄関はそこそこごちゃごちゃしています。悟れないどころかいつまでも入り口にも立てやしないと気になってきました。
古民家は現代の家と大きく変わっているところもありつつ、玄関という空間で今の私たちとも共通項を持っています。それがこうやって歴史や語源を調べると思わぬことと繋がっていたり、それが人の行動を変えたりします。古民家はそういうものがきっとたくさん詰まっているんだろうなぁと思うとまた次の古民家探訪が楽しみになるのです。
<参考書籍・参考サイト>
宮元 健次『雑学3分間ビジュアル図解シリーズ 神社・寺院・茶室・民家 違いがわかる!日本の建築』株式会社PHP研究所(2010)、株式会社ユメックス「日本は玄関で靴を脱ぎ、ドアは外開き…理由は歴史と風土にあった」、家づくりを応援する情報サイト「上がり框(あがりかまち)とは」、LIXIL「玄関ってなぜ玄関っていうの?」、川上幸生「古民家の調査と再築」一般社団法人住まい教育推進協会(2019)