古民家と言えば茅葺や瓦を思い浮かべますが、実はトタンなどの金属やセメントを使ったスレートと言われる素材も使われています。いずれも現在でも古民家再生やリフォームの際に使われている屋根材です。
屋根は一年中もっとも自然にさらされる部位であり、日光・雨・風・雪・温度・湿度などすべての気候の影響を受けます。
そんな日本の家屋を支えてきた屋根材を古い順に見ていきましょう。
自然素材の茅葺き
古代の竪穴式住宅より使われてきた一番古い屋根材は自然素材の茅葺きです。茅葺きとは草で葺かれた屋根の総称で、長く細くしなやかな硬さをもった繊維状の植物が使われ藁葺きとも呼ばれます。
濡れても腐りにくいものかつその土地で手に入りやすい植物であり、葺替えのために茅を育てている家もありました。
茅葺きで一番ポピュラーな素材はススキです。実は茅はススキの別名。今でも河原で見かけるような身近な植物でびっくりですが、屋根に使われるほど強いのですね。
他にも傘や蓑にも使われた菅(スゲ)、葦(アシ)、麻の茎のほか稲藁や麦藁も用いられています。また茅ではないものの自然素材としては樹皮を使った檜皮葺き、薄い木の板の木板葺きがあります。
茅葺きの通気性と断熱性とメンテナンス
葺替えの費用は大きさにもよりますが数百万〜2000万円。しかし2020年には茅葺きの技術がユネスコ無形文化財に指定されました。莫大な費用が掛かっても残り続ける理由があるのです。
茅は濡れると膨張し茅同士の隙間が埋まることで、膨大な貯水ができ多少の大雨くらいでは漏れる心配はありません。また茅葺は何層何層にも重ねて葺くことで大きなお布団のように分厚い空気の層ができます。外からの熱を遮って夏は涼しく、冬は室内の温度を逃さず暖かいのです。
ただし前述の通り茅葺きはメンテナンスが大変です。気候風土によって異なるものの20〜50年に一度は葺替えが必要ですが、現在は職人の高齢化や近所同士でお互いの葺替えを手伝い合う「結」の弱体化などで葺替えはだんだん難しくなってきています。
防火のために民家に広がった瓦
瓦が中国から渡ってきたのは飛鳥時代ですが本瓦と言って高価で重く神社仏閣などでしか使われませんでした。民家に使用されるようになったのは江戸時代からです。それまでの植物ばかりでできていた民家は燃えやすく、大火事があったことをきっかけに瓦が推奨されるようになりました。防火から人々に広がっていったのですね。
民家で使われる瓦の種類
粘土瓦(日本瓦・和瓦)
初期に作られていた本瓦や自然素材で作られた民家でも耐えうる軽い桟瓦は粘土瓦と呼ばれます。様式・用途・焼成法・色・等級・産地が様々あり、現在の三大和瓦産地は愛知の三州瓦、島根の石州瓦、兵庫の淡路瓦です。
金属瓦
銅や鉛で作られた瓦も開発されました。昔は高価で民家には使われませんでしたが、現在では銅板で本瓦を再現した瓦も作られています。
粘土瓦の特徴 長所と短所
日本家屋の代表的な屋根材である瓦。石に柱を乗せただけの石場建ての家屋では、瓦の重みでほどよく押さえつけることで家本体が安定し風に耐えることができるつくりになっています。
耐久性が大きな強みの瓦ですが、弱点も見てみましょう。
この瓦の重みですが、地震の際は瓦を落とすことで家本体の被害を最小限にする役割もあります。ただしランニングコストは低いものの瓦自体は高価で初期費用の負担が大きくなります(参考価格:9,000~12,000円/㎡あたり)。古民家に瓦が残っている場合はぜひ再利用すると良いでしょう。
瓦を固定している漆喰や土は劣化を放置すると瓦がズレたり浮いてきたりするため、そこから雨漏りがしてきます。そのため屋根瓦の点検は毎年必要とされます。
トタンやガルバリウム鋼板に代表される金属屋根
古くは銅や鉛も使われていましたが金属の屋根が一般民家で使われ始めたのは明治以降です。明治維新で鉄道が走るようになると沿線の民家には燃えにくい素材の屋根を建てるよう規定されたことが始まりです。
関東大震災で瓦屋根の弱さを目の当たりにし、亜鉛やブリキ、トタンの屋根が増えました。トタンは安価で工事にもあまり時間がかかりません。ですがトタンは亜鉛鉄板ですので退色したり錆がきたりします。ペンキの塗り直しが必要で耐久性は7〜8年程度です。
最近はカラー鋼板やガルバリウム鋼板が多くなり、再生された古民家でもよく使われています。特にガルバリウムはトタンに比べて3〜6倍の耐久性を持ち、軽いため既存のトタン屋根の上に被せて設置することも可能で耐震性もあります。比較的安価で参考価格は6,000~11,000円/1㎡ほど。
カラー鋼板やガルバリウム鋼板であってもペンキの塗り直しが必要で、またその軽さから本体を安定させることができず石場建ての家屋には向かないと考える工務店や職人さんもいます。
スレート屋根
天然スレートは粘板岩という石材を薄く板状にしたもので、古くから屋根材や壁材に使われてきました。現在広く使われているものは人工スレートで明治に輸入が開始され、セメントと繊維質のつなぎ材を合わせて作られています。しかし昭和初期から広がった化粧石綿スレートは発がん性物質であるアスベストが含まれることから2006年で生産や使用などが全面禁止されました。
現在生産されているのは無石綿(ノンアスベスト)スレートですが、参考価格は4,800~8,000円/1㎡ほどと安価で軽量、デザインも豊富です。一方で防水性は低く、ヒビやコケ、遜色も進むため定期的な塗装は欠かせません。手っ取り早いリフォーム方法ではあるものの耐久性も低く20〜30年ほどです。
古民家再生・新民家で使われる屋根材の比較
色んな屋根材を古い順にみてきましたが、どれも本当に一長一短といった印象ですね。できるだけ元の民家の姿を残しつつリフォームをしたいものですが、実際には自分の好みや費用、職人問題など現実的な問題もでてくるかもしれません。
最後に古民家再生や新民家を考えるときの屋根比較をまとめておきます。
耐年数 | 費用 | メリット | デメリット | |
茅葺き | 20〜50年 | 数百万〜2000万 | 断熱性・通気性 | 高コスト、職人の減少など |
瓦 | 50年以上 | 9,000~12,000円 | 耐久性、耐火性、断熱性、遮音性。管理が容易で遜色が少ない | 初期費用が高い、地震に弱い |
ガルバリウム鋼板 | 30〜40年 | 6,000~11,000円/1㎡ | 安価、軽量、豊富なデザイン | 軽すぎる場合がある、塗装が必要 |
スレート | 20〜30年 | 4,800~8,000円/1㎡ | 安価、軽量、豊富なデザイン | 防水性・耐久性の低さ |
屋根の種類の記事でもお伝えしていた通り、屋根は一番コストがかかってくる部位です。屋根の形状と合わせて素材についてもよく調べたり専門家とお話ししてみることをおすすめします。
古民会でも今後は屋根にも注目して古民家探訪していきます。お店の方に屋根にまつわる情報やお話がきければまた記事にしたいと思います!
<参考書籍・参考サイト・写真提供>
喜入時生著 松本幸大監修『しくみ図解 建築材料が一番わかる』技術評論社(2014)、宮元 健次『雑学3分間ビジュアル図解シリーズ 神社・寺院・茶室・民家 違いがわかる!日本の建築』株式会社PHP研究所(2010)、株式会社カナメ「屋根の歴史」、「屋根ってどんな素材があるの?」、ルーフクラフト「古民家の屋根リフォームにかかる費用や屋根材別の特徴」、日本文化の入り口マガジン和樂web「日本古来のSDGs?葺き替えに1000万円以上かかっても残り続ける「茅葺き屋根」の魅力」、写真提供:photoAC