木材には塗装が不可欠です。見た目だけではなく、木を保護することで長くいい状態で使い続けることができます。
日本ではベンガラ(紅殻)、柿渋、松煙、膠(にかわ)と土を混ぜた久米蔵などが昔から使われてきました。現在は化学樹脂の塗料が種類や色も多いですが、もし古民家で使うのであればやはりできる限り天然素材を使いたいものです。
塗装は古民家再生の中でも自分でも挑戦しやすい作業なので、天然塗料をよく知ってやってみても楽しいかもしれません!
木材に塗装が必要な理由
木材の塗装は定期的に行う必要があります。美観と木の保護のためですが、実は塗装しなかったり、塗装が剥がれた木材は色んなダメージを受けやすくなるのです。
特に水分の影響は大きく、ヒノキなど湿気に強い木材もありますが、通常はこの水分がシミやカビ、腐食の原因になります。
また、木材が太陽光をうけることで人に届く紫外線量は減りますが、その分木材は劣化します。
劣化した木材は、変色・光沢がなくなる、白亜化(剥がれた塗装が白っぽい粉状になること)、割れ、ふくれ、はがれなどが見られるようになり、メンテナンス時期のサインにもなります。
外観をきれいにするという意味では、古民家再生や新民家建築の際に古色塗装することも多いですね。
部材の色の不調和を解消するために古材に似た色を新材などに塗ること。柿渋に松煙などの顔料を混ぜたものが使われる。
昔から使われている天然素材塗料
古民家で使われているのは木材が多いですが、木は呼吸をしています。化学塗料もたくさんありますが、木が息をしやすいようにやはり天然素材を使いたいものです。
昔は土や果物など色んな塗料を作っていました。ここでは日本で昔から木材に使われてきた代表的な塗料のベンガラ・柿渋・松煙にどんな特徴があるのか見ていきましょう!
ベンガラ(紅殻・弁柄)
ベンガラはインドのベンガル地方から輸入され、オランダ語でベンガラと呼ばれていたことから「紅殻」の漢字が当てられました。人体にも無害で安全で口紅や絵の具、セメントやプラスチックの染色など広い用途で使われています。
酸化鉄が原料のため、橙赤色、赤褐色、褐色のような色味です。主に中部から近畿より西の地域で屋外の部材に使われています。
京町屋などベンガラ格子が並ぶ町並みはきれいですね
DIY用にも販売されています。
柿渋(かきしぶ)
柿渋は日本固有の塗料で、なんと平安時代から使われてます。文字通り渋柿から作られ、実を砕いた絞り汁を発酵して熟成させます。木材の塗装のほか、和紙や衣類の染色にも使うことができます。また魚網の接着剤や補強材、薬としても利用されていました。
こららの特徴を出す成分はタンニンで、まさに渋柿を食べたときに感じるあの渋みを出しているものです。発酵させているため、酢酸の酸っぱい汗のような匂いや酪酸という腐った銀杏のような不快な腐敗臭がしますが、乾くと匂いはなくなります。
とにかくすんごい匂いだっていうのが伝わってくる…ちょっと嗅いでみたい…
柿渋自体は赤褐色の半透明で、塗り重ねるとまだらができやすくなります。外壁などで使われ、日に当たると自然と発色していく性質があります。
松煙(しょうえん)
松煙も顔料の一つでエノ油(エゴマ(シソ)の油)や亜麻仁油(亜麻の種の油)などの油を混ぜます。松煙は油分の多い松の木を不完全燃焼させ、出た煤を集めたものです。和墨のほか欧米ではインクとしても使われます。
基本的には真っ黒ですが、化学塗料の黒よりも深みや重厚感のある黒で、ベンガラや柿渋とも合わせて使うことで奥行きのある黒になります。白い顔料と混ぜると青みのあるグレーになるなど面白い塗料です。
多用途できる天然塗料
天然塗料には他にも久米蔵と呼ばれる膠(にかわ/魚や獣類の骨や皮からとれるゼラチン質の成分)と土を混ぜ表面に油を塗ったものなどがあります。昔の人は本当に周りにある使えるものは何でも上手に使っているのがわかります。
伝統塗料はその防虫・防腐・補強作用で木材だけでなく、網や食料袋、衣類、紙、漆喰など染料としてもさまざまな用途で使われてきました。天然素材への関心が高まる中、日本固有の伝統塗料や染料も注目を集めています。
今回は代表的なものを紹介しましたが、さまざまな知恵や用途が詰まっている伝統塗料は地域性などもありそうです。他の素材についても調べてみたいですね!
<参考書籍・参考サイト>
川上幸生『古民家の調査と再築』一般社団法人住まい教育推進協会(2019)、石川るい子編著 清水康造監修『古民家暮らし私流』飛鳥新社(2002)、日本ペイント「白亜化(チョーキング)」、BOTANICA「柿渋とは?その種類・特徴や作り方から染め方・塗り方までご紹介!」、MOKUZAI.com「松煙仕上げ」、浦上化成株式会社「“にかわ(膠)”とは?」