価値ある素材、木材の6つの特性

丸太古民家の素材
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木造建築は鉄筋コンクリートの建物などと比べてなんとなく弱そうなイメージを持つ人もいるかもしれません。ですがコンクリートの寿命は50〜60年ほど。金具は錆びて朽ちていきます。

日本の木は世界でも珍しくブランド化されているものもあるくらい価値のあるものですが、コンクリートがワインのような銘柄をもつことはありません。木材は地域ごとの特性を持ち、耐久性に長け、実は地震にも強いのです。法隆寺が世界最古の木造建築であることを見てもそんな木の強さが分かります。

木材はもちろん腐食しやすいなどの弱点もあるものの、木の家は今エコな家としても見直されています。その土地の木を集めて作られた古民家はさまざまな樹種が集まり、さながら林や森の中に住むようなもの。そんな木の価値を再発見していきましょう。

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木材の特性

古くからある建築材料では木材と石材が代表的です。大きな違いは建築物の寿命です。代表的なのはギリシャのパルテノン神殿で、紀元前438年に建てられたそうです。もはやそれがいつなのか途方もないほど長く立っています。現存する最古の木造建築法隆寺が1400年前ですから木はどうしても石に比べると劣化しやすいようです。

パルテノン神殿
アテネのパルテノン神殿

しかし、湿度が高く台風や地震の多い日本で石材を使った家が同じように長持ちできたかというと疑問です。建物は気候風土にあっていることが重要なのです。

木材が強い理由

木材が強い理由は大きく3つあります。

  • 軽さとしなやかさ
  • 乾燥による強度増幅
  • 耐久性が高い
230年経っても健在の板戸(佐賀県嬉野市旧吉富家の吊り大戸)

1つ目は軽さとしなやかさです。様々な方向からの衝撃を「受け流す」ことができるため、地震や台風にも強いのです。(もちろん軽くてしなやかな木の特性だけでなく、日本建築の柔軟な構造やつくり方によるところもとても大きいです。)

2つ目は乾燥することで強度が増すからです。木は生木の時よりも伐採して200年後が一番強度が高いとされています。中でも日本建築で最高の素材といわれ法隆寺にも使用されているヒノキは伐採後200年後に最強になり、その後1000年もかけて徐々に強度が落ちていくほどです。

3つ目は耐久性が高いことです。木は樹齢と比例して耐久性が上がります。樹齢を重ねた木ほど耐久性が高く、樹齢の4倍の年数建物を支えることができます。100年の樹齢の木を使った建物はなんと400年ももつわけですね。樹脂・タンニン・精油・ゴムを含む樹種は特に耐久性が高いとされています。

こんなに心強い素材がこれまで民家解体でたくさん廃棄されてきたことを思うともったいないという他ありません。

加工が容易

欄間

木材は基本的に柔らかいため、切る・削るなどの加工がしやすく、繊細で細かな意匠も可能です。

また昔の建設現場では大工さんだけでなく、設計士も加わることでその場その場でのつくりの変更もできていました。建築士の設計が絶対でその通りに現場で作り上げるのが基本の現代建築にはこのような柔軟さはなかなかありません。

木材の調湿性

木材は多孔質で無数の小さな孔が空いています。その孔に夏は空気中の湿気を取り込んで不快な蒸し暑さを和らげ、冬は湿気を放出して乾燥を防ぐほか結露防止にもなります。室内に木材があると湿度や温度が安定しやすく体調管理もしやすいのです。

遮音性・吸音性が高い

多孔質である木の特性は防音効果もあります。孔の中に音を吸収することで耳障りな雑音などを和らげてくれます。コンサートホールなどでもよく壁は木材になっていますね。

一方で、自然音に含まれる超高周波は通すことが分かっており、鳥のさえずりや水のせせらぎが聴こえることでリラックス効果も期待できます。コンクリートは超高周波は通しません。

光を吸収する

木材は光の反射率が高く、床や壁など反射による眩しさや目の疲労を軽減させてくれます。また紫外線をよく吸収し分解するため照り返しによる光にはほとんど紫外線が含まれません。

その代わり紫外線による木材の経年変化は起こります。色褪せていくのが気になる場合はワックスなどでケアが必要ですが、むしろヒノキなど深みを帯びた飴色になっていく変化を楽しめる木材もあります。

芳香と視覚によるリラックス効果

アロマと除湿剤にひのきチップ

スギやヒノキなどの芳香はリラックス効果があるだけでなく、トイレ臭や腐敗臭、ペット臭など空気中の悪臭を分解し除去する効果があります。

また、直線(規則性)と円錐模様(意外性)が入り混じった木目模様は炎と同じ副交感神経を優位にする「1/f のゆらぎ」があり視覚的にもリラックス効果があるとされています。

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木材の短所と対策

木材にも短所は色々あります。ですが、今では先人の知恵から最新の技術まで対策も様々です。木の恩恵を受けると同時に手入れをしていくという自然と共存していた持ちつ持たれつの関係を思い出したいものです。

腐食しやすく、シロアリに侵されやすい

先に書いたように吸水性・吸湿性の高さは、高温高湿の場所では石材に比べて腐食や劣化がしやすい短所にもなります。そのため、定期的な修復や修繕、手入れは欠かせず古くは6世紀ごろから行われてきました。ただし、木造建築に限らず時折手入れが必要であることはどの家も変わりません。

また、スギ・ヒノキ・クスノキ・ヒバなど樹脂や香りに防カビ・防虫効果があるものがあり、要所で使うことで防ぐことができます。焼杉も防腐・シロアリ対策に用いられています。

焼杉について書かれている記事はこちら

変形しやすい

木材中の水分量によっては「木が暴れる」と表現されるほど変形しやすい特徴があり、隙間が開いたり割れがきたりすることがあります。

吸湿・放湿される過程で木が落ち着いてくることもあるそうですが、木造建築の知識をしっかりもった建築士さんや大工さんにお願いしても木が自然のものである限り、変形は起こる時には起こるそうです。寒い古民家に床暖房やエアコンやらを完備してもそれらによる乾燥で割れが起きることもあり、一日中加湿し続けたりエアコンを我慢したりすることも……。

火に弱い?

木は薪になってしまうほどよく燃えます。ただし、ある程度の厚みのある木材は鉄やアルミよりも熱伝導率が低いことはあまり知られていません。その耐火性で住宅や各種施設などの防火扉にも使われているほどです。

木は黒焦げになってしまうので燃えたように見えますが、そうやって表面を炭化させることで内部へ酸素を通さず被害を最小限に抑えるのです。迅速な消化が行われれば本来倒壊まで行くことはなかなかありません。

生育に時間がかかる

成長に特に時間のかかる檜の森

木造建築は大量の木を伐採する必要がある上に、生育に時間がかかります。現在は国内の木だけでは足りず輸入木材も多く入ってきています。木の家をおすすめはしていますが、もちろんバッサバッサと切ってはいけません。外国木材は輸入時に薬品で殺虫消毒もされます。

新しい木をできるだけ切らずに済む方法は今ある古い民家を再生させ必要な分だけ新材を使うこと。また古材を再利用することでしょう。前述の通り、木材は乾燥して樹齢の4倍は持つのです。まだまだ使える木材を廃棄しないことが大切です。

株式会社NIKKOの液体ガラス技術は耐久1000年木材を目指す

これまで挙げてきた木材の短所をすべて克服してしまったといえる技術が開発されています。なんと液体ガラスを木に染み込ませて耐火性・耐腐性・防アリ性を上げるというものです。耐久性が上がればそれだけ木が生育する期間にも余裕ができます。

現在86歳の社長さんが75歳の時に立ち上げた会社ですが、1000年以上経つ世界の建築物が石でありその中にガラス成分が含まれていることからヒントを得て作られました。今ではスターバックスや建築家の隈研吾氏も取り入れています。

1000年もつ木造建築を子どもたちにという社長さんの思いが綴られています

ワインのように銘柄がある日本の価値ある木材

世界的にも木材がブランド化しているというのは珍しいそうです。産地によってその特性や美しさが違います。

木材の名産地はすべての都道府県にあり、ブランド木材の定義はハッキリとはしていないようです。国産であることはもちろん、きれいに製材された良品であること、名産地のものであること、植林でなく天然木であることなどなど。

下記はほんの一例です。

吉野杉奈良年輪が緻密で均一。色つやと香りが良く、他の杉より強度が高い
飫肥(おび)杉宮崎樹脂を多く含み弾力がある。湿気、曲げ、裂け、折れ、シロアリに強い
尾鷲檜三重光沢があり年輪が細やかで木肌が美しい。耐朽性が高い
土佐檜高知鮮やかな赤みと強い香り。油分が多く変色しにくい

もちろんどこにでも使えるようなお値段ではないことも多いですが、古民家再生や新民家建設の際には自分のお気に入りの部屋など「ここぞ」というところに使ってみるのもすてきです。

「日本建築は木の文化」で短文のれんしゅう

木のメリットをゴリ押ししている気配もないではない当ブログで恐縮です……。もちろん鉄筋コンクリートも自由な造形や量産が可能で木造より割安な場合も多く、特に戦後の日本建築と経済を支えてきました。コンクリートを流し込むことで効率的、合理的に建築し物凄いスピードで新しい時代が作られたのです。鉄筋やコンクリートが欧米から日本に入ってきたのは明治の頃ですから、わずか百数十年で日本の景観はもはやほとんどそれ以前の面影のないほど変わりました。ですが残念ながらその結果私たちは閉鎖的な箱の中で生活することになり、様々な心身不調やどこかつながりを失った社会的課題に追われています。

かつての日本は家の構造から建具、家具に食器まで、家のほとんどが木でできたものを使ってきました。日本人はずっとこの気候風土で木と暮らしてきたことを思うとその生活に戻るのが一番健康的な気がします。日本に鉄筋コンクリートをもたらしたヨーロッパでさえ、各地で現在も古い家や街並みがあるのはそれがその地の彼らにとって最善の家だと知っているからです。そのおかげで自然にも人にも駆逐されず元の姿のまま今でも残っています。私はああいう街並みを見ると「私たちはなんだかとてつもないものを失ってしまったようだなぁ」ととてもうらやましくなるのです。(545文字/650文字)

<参考書籍・参考サイト>

喜入時生著 松本幸大監修『しくみ図解 建築材料が一番わかる』技術評論社(2014)、宮元 健次『雑学3分間ビジュアル図解シリーズ 神社・寺院・茶室・民家 違いがわかる!日本の建築』株式会社PHP研究所(2010)、隈研吾『点・線・面』岩波書店(2020)、石川るい子編著 清水康造監修『古民家暮らし私流』飛鳥新社(2002)、木づかい.com「法隆寺を支える材はヒノキ」、株式会社マルホン「耳にやさしい木の秘密」「木材はなぜ、変色するのか?」榎戸材木店「杉の6つの吸収作用」、阿部興業株式会社「木材が火に強い理由」、一部写真提供:photoAC

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