古民家は環境問題や過疎化、少子高齢社会などの社会問題ともつながっています。
新しいものを建てては短期間で壊してきたこれまでの日本の家は、ほんの数分使っては捨ててきたコンビニのプラスチックカトラリーにも通じます。
今回は究極の長期優良住宅になりうる古民家が循環型建築としてどう地球環境に貢献できるか見てみましょう。
古民家再生で世界の森林破壊と日本の林業の衰退を止める
世界の森林破壊は今でも減少しています。ただ南米やアフリカで減少がつづくものの、アジアやヨーロッパでは実は増加傾向です。これは植林による人口林が増えたことによります。
日本は国土面積の約70%が森林です。世界平均が約30%で、日本の森林率はフィンランド、スウェーデンに次ぐ世界第3位です。
森林資源にとても恵まれた国にも関わらず、日本の木材自給率は約40%と低いのです。
これは戦後急減した木材を補うために輸入木材の自由化がされたことによりますが、現在でも続いていることで日本の林業の衰退へつながっています。
森林や林業を守るために古民家再生でできること
世界の森林破壊や日本の林業衰退に対して古民家再生でできることがあります。
- 国産材の需要を増やす
- 日本の林業の技術や知識の継承や雇用促進につながる
- 農村地域の過疎化を止める
- 輸送コストや環境コストの負担をなくし、昔と同じく地産地消できる
輸入木材は種類も豊富で国産材よりも安価ですが、素晴らしい木材が日本にあるのに使わないのはもったいないことです。
木材をわざわざ輸入すると運輸コストや環境コストもかかる上に、一緒についてくる虫などによって日本の生態系が崩されないよう輸入木材には防虫剤や防腐剤が注入されています。
もちろんせっかく増えてきた森林ですから使うだけではなく植林を続けることも大切です。
カーボン・フィグゼイションができる
世界の森林伐採が進む一方で人類の化石燃料の使用は増え続けました。その結果地球温暖化が進み、改善策として世界規模でカーボン・ニュートラルの考え方が広まりました。
ただし、カーボン・ニュートラル(炭素中立)はあくまでも大気中の二酸化炭素の排出量と吸収量を±0にするということで、減らすわけではありません。
そこでより厳しい取り組みとしてカーボン・フィグゼーション(炭素固定)の考え方が生まれました。
カーボン・フィグゼーション(carbon fixation/炭素固定)とは?
バイオマス燃料として木材を燃やすことで、化石燃料よりは二酸化炭素の排出量は抑えることができます。
ただし、木は光合成で吸収した二酸化炭素を、燃やす時に再び大気中に放出します。化石燃料より少ないものの二酸化炭素が排出されることに変わりはないのです。
カーボン・フィグゼーションは木の中に炭素を固定したままにする、すなわち木材は木材として使い続けるということです。
固定される期間が長ければ長いほど二酸化炭素の排出量も減らすことができます。
古民家再生は長期間のカーボン・フィグゼーションになる
例えば樹齢50年の木は50年分の二酸化炭素を吸っています。それを100年民家で使うと100年は二酸化炭素が排出されず、解体されても古材として再活用されればさらに長期間排出しないことになります。
古民家鑑定書や古民家簡易鑑定、古材鑑定書には建物と木材に含まれる二酸化炭素量が記されています。伐採後どんどん強くなる木材はカーボン・フィグゼーションの考え方からも長く活用したい資源なのです。
古民家再生で廃棄物(ゴミ)を減らす
建てては壊すを繰り返してきた日本の建築物ですが、壊せばゴミが出ます。家を解体して出たゴミは産業廃棄物(産廃)となります。日本で1年に出される産業廃棄物は3億9000万トンです。
産業廃棄物はそのまま埋め立てられると考えられがちですが、実際には収集運搬、中間処理(小さくしたり、有害なものは無害化する)、そして埋め立てとなります。
ゴミが出るだけでなく、収集運搬や中間処理には大変なコストと手間と時間がかかる上、埋め立て場所もなくなってきています。
古民家活用で5R活動!
ゴミ削減のR基本活動は古民家活用にも通じています。
- Reduce(削減):家を壊して産業廃棄物を出さない
- Reuse(再利用):古民家や空き家、古材を再活用する
- Recycle(資源再生):土壁や藁は堆肥化し資源として使う
- Repair(修繕):メンテナンスして長く使う
- Refuse(拒否):化学素材をできるだけ使わず天然素材のまま再活用できるようにする
環境問題は人間問題とも言われます。問題を起こしているのは人間なので人間が変わる必要があるでしょう。
古民家を活用するということは、実は自分の暮らしを安心安全、豊かで丁寧なものにするだけでなく、この「人間問題」を解決する手段の1つでもあります。
多くの人が古民家や空き家をメンテナンスしながら長く暮らすことはきっと将来に大きな変化を生むはずです!
<参考書籍・参考サイト>
川上幸生『古民家の調査と再築』一般社団法人住まい教育推進協会(2019)、Food and Agriculture Organization of the United Nations(FAO) Global Forest Resources Assessment2020 Main Report、林野庁「世界森林資源評価(FRA)2020 メインレポート概要」、「令和3年木材需給表」の公表について」、シルバニアホーム「国産材と輸入材(外材)のメリットとデメリット」、KAWANNO’S BLOG「カーボンフィグゼーション」、環境省「産業廃棄物の排出及び処理状況(令和2年度速報値)」