古民家といえば縁側ですね。縁側のある古民家に出会えるととても嬉しくなります。上の写真は福岡県糟屋郡RIYAKU.の縁側です。ぶたの蚊取り線香がよく似合います。
現代建築では合理性や効率性が優先されて少なくなった縁側ですが、夏は直射日光を避けたり冬は暖かい空気が溜まる場所となったり実は省エネ効果もあるそうです。
外と内を切り離したりつなげたり実は大切な空間の縁側。少し前まではご近所とのコミュニケーションの場であったりしました。家の中から外の景色を楽しめる空間でもありますね。
縁側の役割
縁側は日本建築の特徴的な空間の1つです。なんだかほっこりさせてくれる場所ですが実は色々と役割があります。
- 廊下
- 部屋の延長
- 上り口
- 人々との交流スペース
- 家業の作業場
- 夏は日差しから守って風通しもよくする、冬は日差しを取り入れて暖かい
民家の縁側には大き分けてくれ縁、濡縁の2つがあります。変わったところでは町屋にあったばったり床几も縁側のように使えました。それぞれの特徴を見ていきましょう。
くれ縁(内縁・広縁・入側(いりかわ)縁)
一般的に縁側はこのくれ縁を指します。イメージとしては室内に設けられた縁側で、屋根の下にあります。居室との間に障子などの建具がありますが、縁側の外側にも雨戸があります。
居室側の建具が開かれていると室内空間が広く感じられます。昔ながらの2mほどある幅広い縁側は広縁(ひろえん)と呼ばれます。コタツや火鉢なども置ける一つの部屋のような空間にできることも。
ヒノキやブナなど堅い木が使われることが多いです。
濡れ縁(外縁)
濡れ縁は庇はあるものの、建物からせり出して作られる縁側です。雨戸や壁がなく外の空間にあり雨に濡れるため濡れ縁と呼ばれます。また、部屋の内部の床から一段下がったところに造られることもあり落ち縁といいます。
スギやヒノキなど水や腐食に強い木材や水はけのいい竹が使われたり、すのこ状にして取り付けられたりしました。
沓脱石(くつぬぎいし・くぬぎいし)
縁側のそばに置いてある石は靴を脱ぐための沓脱石と呼ばれます。名前の通り靴を脱ぐために足をかけたり靴を置いたりしますが、他にも庭と建物をつなぐ役割があります。沓脱石は玄関にも設置されます。
今だと縁側まで高さがあってもガッと上がっちゃいそう……
昔はお着物だし、沓脱石がないと確かに上がりにくそう。
沓脱石のおかげで所作まできれいになりそうだね
ばったり床几(しょうぎ)・揚見世(あげみせ)
ばったり床几は揚見世とも呼ばれます。折りたたみ式の縁側のような感じで、町屋の軒先で使われていました。狭い通りであっても普段は写真のように閉じておき、必要に応じて開けば商品を並べることができました。
「ばったり」はこの擬音通り、ばったりと下ろして使っていたからだそうです。なんだか微笑ましいネーミングですね。
縁側で短文のれんしゅう
縁側を見ていて良いなぁと思うのは雨の日です。現代の多くの家は雨が降るともう窓を閉めてしまいます。でも縁側があれば室内と雨との距離をとってくれるため、土砂降りでもない限り開けて雨音や風を感じられます。
日本人の内と外意識の強さは以前から語られるところですが、戸があいている限りハッキリ言って外から中は丸見えです。昔は玄関土間から中の座敷が丸見えだったことも多くありました。内と外を気にしながらも外と積極的に繋がろうとさえ感じるこのオープンぶりは矛盾した面白さを感じます。
現代建築は戸も窓も限られていて小さく、中が丸見えなんてことは多くありません。今私たちは縁側や大きな戸の消失だけでなく他のさまざまな文明も手伝って、自分は外の世界と繋がっているという外への意識が薄れてしまっているような気がします。
縁側でぼんやりできるのは、縁側が非常にぼんやりした空間だからかもしれません。部屋と部屋の間を閉じたり繋いだり、屋内のようで屋外にもなったりとはっきりしない曖昧さがあります。だからこそ合理性が優先されムダなように見えてしまう縁側は省かれるようになってしまったのかもしれません。でも私はそういう曖昧さやムダや余白なんかのぼんやりした一見無意味だと一蹴されてしまうものを拾い上げていく作業に憧れます。縁側はそんな曖昧さや外の空間をまずは物理的に見て感じられる貴重な空間だと思うのです。
(586文字/650文字)
<参考書籍・参考サイト>
宮元 健次『雑学3分間ビジュアル図解シリーズ 神社・寺院・茶室・民家 違いがわかる!日本の建築』株式会社PHP研究所(2010)、和風住宅の基礎知識「縁側」、重量木骨の家「「縁側」には昔ながらの知恵が詰まってる! 知っておきたいメリットや注意点」、スペースガーデニング「沓脱石とは??」