福岡市東区の箱崎にある自然薯料理のお店「筥崎とろろ」の建物が旧柴田家住宅として国の有形文化財として登録されました!古民家探訪やこのブログが始まるきっかけにもなった建物なのでうれしいです。
それでは国に登録有形文化財として指定された建物はその後どうなっていくのでしょうか?そもそも登録有形文化財とはなにか?登録されるとどんなメリットがあるのか?問題点なども一つずつ見ていきましょう!

他にも広島 安芸市の旧畠中家住宅など古民家にも
登録有形文化財として指定されているものがたくさんあります
登録有形文化財制度(建造物)とはなにか?

簡単にいうと、
- 1996(平成8)年に改正された文化財保護法にもとづいて、文化財登録原簿に有形文化財として登録される制度
- 近代の多種多様かつ大量の文化建造物を幅広く、届け出や助言・指導を基本として緩やかに保護する
従来の「文化財保護法」では貴重な文化建造物は、国によって重要なもののみ厳選され許可制とするなど強い規制や手厚い保護が行われていました。
しかし近代以降、多種多様で大量の文化建造物が国や地方自治体に指定されると、もともとの指定制度では追いつかなくなったことで間口を広く、できるだけ多くの建造物を守れるようにしたのが有形登録文化財制度です。

がっちがちに「こういう建物じゃなきゃダメ!」とか規制とかを
厳しくすると救われる建物も救われなくなってしまうかもしれないものね
登録有形文化財に登録されるための基準とは?

幅広く、緩やかにといってももちろん登録されるための基準はあります。
文化庁「登録有形文化財登録基準」
平成8年8月30日文部省告示第152号改正 平成17年3月28日文部科学省告示第44号 建築物,土木構造物及びその他の工作物(重要文化財及び文化財保護法第182条第2項に規定する指定を地方公共団体が行っているものを除く。)のうち,原則として建設後50年を経過し,かつ,次の各号の一に該当するもの (1)国土の歴史的景観に寄与しているもの
(2)造形の規範となっているもの
(3)再現することが容易でないもの
- つくられてから50年経っているもの
- (1)(2)(3)の要約
- 日本の歴史的な景色や文化、伝承などをつくる要素となっているもの
- デザイン自体が素晴らしく、その後の建築に影響を与えたり構造が広まっている、著名な建築家などが関わっている
- 現在では珍しいような優れた技術や技能が用いられ、他に同じような例がない

ちなみに「建設後50年」というのは古民家の定義の一つと
されていることもあります
登録される「建造物」には具体的にどんなものがある?

「建築物,土木構造物及びその他の工作物」とあるので、建物だけではありません。
- 建築物:住宅、工場、神社、お寺、事務所、駅 など
- 土木構造物:橋、ダム、トンネル、堤防、水門、水路 など
- その他の工作物:煙突、塀 など
現在は全国で13,637件が登録されています。(令和5年2月27日現在)

その中でも住宅、古民家は6,102件!
登録有形文化財になると、その後どうなる?
登録有形文化財は「活用しながら保存する」ためにある制度です。重要文化財や自治体の文化財に指定されると建造物に対して厳しい制限が行われたり、何かと国の許可が必要といったこともあります。
対して登録有形文化財の場合は何か問題のある場合は勧告という「緩やか」な保護となっています。
登録されることのメリット

登録されることで地域活性化につながったり、手を加えて活用されるようになります。また、その建造物を引き継ぐ所有者には維持していってもらうために様々な面で補助があります。
- 長く保存される可能性が高まる
- 改修や修繕などは届出すれば可能
- 地域活性化や復興につながる
- 国から指導や助言を受けることができる
- 維持のための修繕等に補助金が交付される
- 相続税や固定資産税の優遇措置を受けられる

維持や管理をしてくれる所有者の方の負担が大きすぎると
残していくのも難しいものね
登録されると守らなければならないこともある

指定制度のように「釘一本も打てない」わけではありませんが、ある程度規則はあります。
- 減失や壊れたり傷ついたりした場合、修繕・改修・移築などの現状変更またそれらの完了前後は届出が必要
- 管理責任者・所有者の選任・変更・解任、所在変更には届出が必要
- 届出しなかった場合は罰則あり
もちろん、現状変更する場合は登録時に価値あると評価された箇所や要素については十分考慮する必要があるとされています。

雨どいをつけたいくらいであれば届出は不要だったりするので、
管理する人はどこから届け出しないといけないか確認しないといけないんですね
文化庁の「登録後の手引き」はイラスト付きでわかりやすいので興味があれば見てみてください。
登録抹消される場合
登録から外されることもあります。
- 文化財指定による登録抹消
- 重要文化財として指定される
- 都道府県や市町村などの自治体で文化財指定される
- 現状変更があった場合の登録抹消
- 解体や火災・災害などによる減失 など

他の何かで文化財として指定されて保護されることになれば
国の登録有形文化財としてはリストから外されるのね

火災や災害による損失も少なくありません
解体が増えている登録有形文化財
登録に向けた資料作成の手引きが文化庁から出されていますが、この手引きを読むだけですでに大変です。膨大な情報量です。今回「筥崎とろろ」の「旧柴田家住宅」ご担当者たちもこれらの作業を地道に繰り返してこられたのだと思います。
また、補助金があっても古い建造物ならではの専門家や職人による補修・部材が必要であったり、中には数億円規模の費用がかかるなど所有者の負担は大きく、維持できずに解体される事例が近年増えています。建造物は他の登録有形文化財に比べて特にお金がかかるのです。

平成8年の制度改正から180件を私たちは失い、最近では店舗として活用していた事業主の新型コロナによる廃業などもあります。本来未来に残すための制度として始まったはずですが、残念ながら機能しきれていません。
私たちは登録されたものをなんとなく見るだけのことが多いかもしれませんが、残そうとする人々の努力や強い思いがあって古民家をはじめ貴重な文化財は保存や保護されていることも同時に忘れてはいけません。

今度「筥崎とろろ」に行ったときは、その建物をつくった人だけじゃなく
守ろうとしている人のことも考えて見てみたいね!
登録有形文化財の建造物はじゃらん や一休.com
などでも活用している宿を探すことができます。観光や食事に出向くなど私たちにも文化財を残すためにできることを探してみませんか。
<参考書籍・上記以外の参考サイト>
川上幸生「古民家の調査と再築」一般社団法人住まい教育推進協会(2019)、文化庁「有形文化財(建造物)」、「登録有形文化財(建造物)の登録及び抹消件数」、防府市「登録有形文化財(建造物)の基準」、愛知県「登録文化財の制度について」