今回の古民家探訪は前回に続いて佐賀県嬉野市。歴史あふれる街並みが残る塩田津を訪ねました。
古民家探訪もついに20軒目なのね
撮影させて頂いたり古民家の話を聞かせてくださるお店の方々のおかげです。
ありがとうございます!
Vegeキッチン塩田津の吉富家は築230年以上
塩田津は佐賀県嬉野市にあり、かつては長崎街道の宿場町、塩田宿(しおたしゅく)として知られました。塩田「津」と呼ばれるのは塩田川を利用した港町としても栄えたからだそうです。
また嬉野・塩田では熊本の天草で採れた陶石をもとに波佐見焼、有田焼などの原料が作られています。
現在塩田津は平成17年「重要伝統的建造物群保存地区」に選定され、塩田津町並み保存会によって江戸時代に確立したかつての建築様式で当時の街並みを再現する活動が行われています。漆喰の白い壁が美しい町並みです。
今まさに建物ひとつひとつを修理中の様子をみることができますよ!
そんなVegeキッチン塩田津の建物はこの塩田津地区最古、1790(寛政2)年の建設で築約230年です。
吉富家と呼ばれるこの町屋は通りの向いにある小柳家・田崎家(塩田津地区最大の木造3階建)で営まれていた呉服屋の出店でした。
家屋内には反物の商品管理や在庫保管の場所として使われていた家ならではのつくりもあり、とてもおもしろい場所です。早速見ていきましょう!
吊り大戸が迎える吉富家の入り口
入り口の扉を開けます。古民家の入り口というとこれまで見てきたのはガラス戸が多かったですが、今回は一見重厚感のある板戸です。開け閉めする引き戸の開口部の高さも低く感じます。実はこの戸、吊り戸になっているんです……!
鴨居から戸全体を吊り下げ、横に引いて開閉できる戸
今でもハンガードアと呼ばれ、戸を吊り下げることで敷居部分が不要なためバリアフリーな建具としても用いられています。
ただし機密性が低いことから最近の建物では屋外に取り付けられることはほとんどありません。
でもここは前述の通り江戸時代に建てられた呉服屋さんの出店。人の出入り口以外に、仕入れた反物をいっぺんにたくさん入れたり出したりするためには開口部をガバッと大きく開く戸が必要でした。
どんなふうに開くのか見せて頂きました!
まずはこちら、引き戸も吊り戸も閉めてある状態です。吊り上げる作業は屋内から行います。
暗めのブレブレで肝心なところが見えず申し訳ありませんが、下部にある留め具を外します。
すると思いがけずすいっと持ち上がりました。留め具を外して持ち上げるだけというなんともシンプルな仕組みです。
このままぐいーっと上げて、女性の頭の上部にある鉤に引っ掛けられるようになっています。軽々と持ち上げているようにも見えますが、鉤まで持ちあげるには結構重いので今回はここまでにしてもらいました。
吊り戸上部です。写真が暗くて分かりにくいですが可動部は穴に戸上部の棒をさしてあるだけのように見えました。単純な作りの方が壊れにくく、まさに現代まで使えているのかもしれません。
大きな戸がぐーんと動く姿はなかなか迫力がありました!
町屋ならではの摺り上げ戸
そしてその吊り大戸の左右にはガラス戸があります。上の写真は大戸(玄関)の左側。右側も同じようなガラス戸が入っているのですが、これらはただのガラス戸ではなく摺り上げ戸になっているんです。
3枚ある板戸を上げ下げして開けたり閉じたりする。開けるときは板戸を上げて内側に備え付けられてある戸袋に3枚すべて収納できるようになっている
現代はシャッターがありますが、言ってみたらこの摺り上げ戸がシャッターの元祖のようにも思えます。お店の方によると、これも吊り大戸と同じで荷物の搬入出がたくさんできるように設けられていたそうです。
内側から見てみましょう。
通常摺り上げ戸は板戸のため閉めると真っ暗になってしまいます。そのためこの吉富家のようにガラス戸を入れることで採光できるようにしているようです。
近づいて見上げてみると戸袋部分の溝が見えました。板戸が並べて収納してあります。風雨時など必要に応じて上げたり下げたりする板戸の枚数を調節するという使い方をしていたようです。
ただ摺り上げ戸は機密性などの防犯面で不安も多く、また閉めると室内は真っ暗で夏は暑く、開けると冬は寒いなどなかなか機能性が伴わなかったところもありました。
そのためこのように多くがガラス戸にとって代わり、全国でも残っている摺り上げ戸は貴重なものとなっています。
珍しいものをランチがてら見せてもらえるなんてありがたいね!
今も土足で人々が歩き回る土間
それでは店内を見させて頂きます。先ほどの吊り大戸の引き戸をひいて中に入ると土間と板間になっています。土間部分は今も土足です。
今はガラス戸と間接照明があり穏やかな明るさはあるものの、店先の軒下が広めにとってあり、今でも少し暗めの空間です。江戸時代当時はもっと暗かったのが想像できます。
土間部分は現在展示や物販エリアとなっています。天井が低いのでさらに採光しにくかったかもしれません。
梁が迫ってきそうなほどに、どうして天井がこんなに低いのか伺ってみましたがお店の方はご存知ないようでした。あくまで出店だったのであまり開放的な空間である必要はなかったのかもしれません。
土間はお店のバックヤードへと続いています。建物の一番奥まで続く町屋ならではの通り庭になっているのかもしれません。
見世から中の間に並ぶ歴史
板間の写真を撮りそびれてしまったのですが、入り口入ってすぐ右側は板間となっています。見世部分だったのかもしれません。ランチはここで頂きました。
この板間から奥に続く部屋には歴史を感じられる展示物が置いてあります。昭和の黒電話やカメラなどがひっそりと置いてあるのはなかなか雰囲気がありました。
入り口から気づくことができますが、230年も経っているとは思えないほど柱や壁がきれいに残っているのは驚きです。
左端のはテレビかしら……聞きそびれてしまいました
板間の隣は畳が敷いてある小さな部屋です。板間とこの部屋の間には建具は取り付けられていませんでしたが、一般的な町屋ではここは見世の隣、中の間というお客さんを通す部屋になっています。
塩田津の貴重な歴史資料が展示されていました。こじんまりとしてなかなか居心地の良い空間です。
ガラス障子で隔てられた向こう、中の間の奥は台所(家族が食事をする部屋)のはずですが、この日は地域の人たちと思われる団体さんで賑やかにされていました。
見えた畳の数から結構広い部屋のようでした。奥から明るい自然光が入っているので縁側などにつながっているのかもしれません。
また今度お邪魔することがあったら見れるといいね
今回は塩田津の中でも一番古い家屋の吉富家でしたが、この吉富家含め塩田津には居蔵造りで有名な家が他にも残っています。
国指定重要文化財にも指定されている西岡家や国登録有形文化財に制定されている杉光家などなど。一部一時的に開放していない住居もありますが、小さなエリアでおもしろい古民家に出会える場所です。
すべての修復や再生が完成した頃にまた行きたいです!
Vegeキッチン塩田津を味わう
Vegeキッチン塩田津ではランチメニューの日替わり膳を頂きました。Vegeキッチン塩田津は地産地消率100%で地元の食材を使った食事が楽しめます。
素朴な味わいの日替わり御膳でしたがちゃんこ鍋が有名だそうなので寒い季節に頂きたいですね。
Vegeキッチン塩田津 店舗情報
住所 :佐賀県嬉野市塩田町大字馬場下甲741
TEL : 0954663753
<営業時間>11:00〜14:00
<定休日> 水
<駐車場>未確認
参考サイト・参考書籍
佐賀県の観光情報ポータルサイト あそぼーさが「塩田ボランティアガイド連絡会」、住宅建築専門用語辞典「吊り戸」、”関宿”まちなみ・町屋暮らし「隠れた関宿名物 “擦り上げ戸”」、森敏治『長崎街道 塩田宿』嬉野市教育委員会(令和2年3月改訂増刷版・Vegeキッチン塩田津提供)