「古民家暮らし私流」古民家暮らしは忍耐?

古民家を読む古民家本
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今回の本は群馬の築150年の二階建て旅籠を神奈川県の川崎市へ移築再生した様子が書かれたものです。施主と2人の設計者の話、そしてたくさんの写真とともにまとめられています。

暮らしてみないとわからない仰天話もあり古民家暮らしに忍耐が必要かもわかる本です。

中古しかないかもしれませんが、今日紹介するのはこの本
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「古民家暮らし私流」の概要

前半は移築再生が完了した家の様子がカラー写真で玄関から居室、庭などなどたくさんみることができます。また、建具や古道具、職人たちの仕事や道具まで古民家を形作ったものたちがくまなく分かりやすく綴られておりとても見やすい本です。

後半には移築再生までの経緯や施主・設計者・職人たちの思いが綴られているほか、具体的にどのようなスケジュールで進んでいったのか、そして実際に住んでどんなことが起こったのか「古民家暮らし」の実際を知ることもでき、ここが一番おもしろかったかもしれません。

金額について具体的な数字が全くでてこないのでそこが残念ではありますが、見るからにこだわって建てているので新築よりお金かかってそうだなあという印象です。

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施主のご夫婦のはなし

施主のご主人は出雲の古い実家が朽ちて取り壊された経験がありました。古民家再生を希望される方はなんとなくこういった経験をお持ちの方がいらっしゃる印象です。何か「失ったもの」がずっと心のどこかに残りつづけていたのかもしれません。奥さんのるい子さんも大手ハウスメーカーのカタログには惹かれず化学物質過敏症だったこともあり、この移築再生を決意しました。

編著者である奥さんのるい子さんは音楽書や児童書の編集や国際フランツ・シューベルト協会を運営をされています。

設計者のはなし

この移築再生にはGプランニングという会社の清水康造さんと佐々木祐子さんという2人の設計者が関わっています。どちらも民家再生と施主さん、譲る側の思いなどできるだけどれも取りこぼすまいと、手も気持ちも尽くしているのが伝わってきます。

新築以上の手間も暇もかかる移築再生を語る中で、清水さんはこんなことを言っていました。

建築家は改修や再生が出来ないと二十一世紀を生き残れないかもしれない。

石川るい子編著 清水康造監修「古民家暮らし私流」飛鳥新社(2002)94頁

再生の仕事は設計士さんにとっても新旧の技術を理解し活かし、譲り手と家が抱いている過去や歴史を片隅におきながら、さらに施主にとって新たに住みやすい現代に適応した家を創造します。まっさらな状態から何かを作り始めるよりも遥かに困難な仕事なのだろうと思いますが、空き家問題や環境問題が急速に進む中、サステナブル社会構築の一つとして今民家も改修や再生が増えています。そんなとき誰だって清水さん達のような再生の実績がある人にお願いしたいと思うのは自然です。

もうひとりの設計者、佐々木さんは民家再生が成功するための3つの条件を書いてくれていました。

まず再生する民家を選ぶ目、民家を譲ってくださる方の協力、そして何より民家再生の家を希望する施主の思い入れの強さだ。

石川るい子編著 清水康造監修「古民家暮らし私流」飛鳥新社(2002)96頁

職人さんの腕とかお金とかをつい先に想像してしまいがちですが、それ以前にまずはこういう形ないものの推進力が必須なのかもしれません。どれだけお金をかけても職人さんが頑張ってもこの3つのどれかが欠けてしまえば見た感じだけは立派な、でも空虚な「民家」が出来上がってしまいそうです。

古民家暮らしは忍耐の連続?

施主であり、この本の編著者である石川るい子さんが古民家と向き合う奮闘記を書いています。お金をかけても一流の職人さんが手を尽くしても、相手は自然素材の家。古民家再生を考えるならこんなことも起こるのかも?!と参考になります。

「寒い暗い、古くて汚い」への不安

古民家の寒さ対策

寒さについては話を聞いていたこともあり、設計者の提案で全室床暖房・エアコン、ペアガラスですきま風を防いでいます。ここはお金である程度解決できるところではありますが、石川さんたちはあばれる木のためにエアコンが使えず寒さに耐えることになります……。

暗さは落ち着き

石川さんたちは「陰翳礼讃」タイプなので、白熱灯のほの明るさが似合う古民家がむしろ合っているようです。蛍光灯は電磁波の影響も懸念されるらしくはじめて知りました。

「古くて汚い」がもたらすもの

見も知らぬ他人が百年以上も住み暮らしていたわけだ。その重い記憶も引きずってくると思うと何か心にざわつくものがあった。現地で見た家の、煤で黒くなった梁や柱は、よく見れば手垢やら訳のわからないものがどっさりと付着しており、誰も住まなくなった時間分の埃もかぶって、あくまでも黒ずみ荒んで見えた。(改行略)

石川るい子編著 清水康造監修「古民家暮らし私流」飛鳥新社(2002)104頁

思わず息をのんでしまいそうなリアルな描写で「生理的に受け入れられるか」と不安になったるい子さんの気持ちが伝わってきます。「わけのわからないもの」っていうのがこわいですね。しかもこの家で養蚕業を営んでいた時期もあるため、至る所に蚕の吐いた糸がへばりついているのです……。

ただ、実際に現場に足を運び解体された木肌に触れ、クリーニングとオイル塗装で見違える風格をあらわした古材を目にして、るい子さんはむしろ心強さを感じるようになっていきます。

一つ一つの傷や汚れも住んできた人の証として、大切にしたいと思うようになった。家を継ぐということはこういうことも一緒に継いでいくことに違いない。そうも思った。

石川るい子編著 清水康造監修「古民家暮らし私流」飛鳥新社(2002)105頁

よく古民家再生の動画などみていると、もうみんなみんな壊してしまって新しくきれいにして行こう!とするものもよく見ます。あまりの汚れや傷の多さにどうしようもなさや嫌悪感からそうなってしまうのかもしれません。

私たちは転勤や引っ越し、賃貸暮らしも多く住み替えが容易で「家」に対する思いが希薄です。なかなか住む場所以上のその向こうにあるものに気がつくことができず、新しく自分のものになった家という所有感が先立ち一新して塗り替えたくなるのは分からないではありません。

古民家再生のパイオニアの降幡さんが「今も未来も過去の延長線上にある」と書いていたのを思い出します。過去や歴史をみることなく、急にそこで新しいものを取り入れても実は未来は定まりにくい。傷や汚れも受け入れてその家を継ぐ一員になった意識を持つことでその後家とも仲良くやっていけるのかもしれません。

降幡さんの本の紹介はこちら

古民家も暑い

暑さを基準において建てられてきた日本家屋です。開放的で夏はすべての戸を開け放つことで自然の風を潤沢に取り入れ涼しい……はず!と思いきや、昨今の異常な暑さ。真夏は40度近くも上がるようになったのです。石川さんたちも安全のためにエアコンに頼ってお過ごしです。

木がはしれ、カビる

住み始めてまもなく石川さんの家のどこかしこで「パシっ」「パキッ」と昼夜問わず木が乾燥して弾ける音がするようになります。しかも柱や梁に深い亀裂までできて白い木肌が見えるように。

「木がささやいていると思えばいいんじゃないですか」と、棟梁はこともなげにいう。

石川るい子編著 清水康造監修「古民家暮らし私流」飛鳥新社(2002)106頁

石川さんたちもそんなものかと思いながらも、木がささやくたびに不安になったようです。そんなものなのでしょうか…割れ続けたら、と思うと確かに心配になってしまいますが、その後落ち着いたのかは分かりません。

お風呂の木枠にカビもでました。防腐剤も塗っていましたが原因は風通しの悪さだったようです。

  • はめ殺し(開閉できない固定)のガラス戸
  • 換気扇が浴室の広さに対して小さい
  • ドアの下に通気口がない

確かに昔の家は隙間だらけだったので自然に風通しがされていたのでしょう。ただ他の家では大丈夫だったという話をきいて最大の原因は手入れの悪さだろうと嘆くるい子さん。一生懸命掃除していたるい子さんでさえそうなのだから掃除嫌いな私は心配でしかありません。

あばれる木にエアコンを諦める

冬に使い始めたこたつですが、置かれた欅は波打つように反りました。建具にも床にも隙間がどんどん開き始めます。寒さ対策にエアコンをとりつけていた石川家ですが、使い始めると自体は悪化。エアコンの風や暖められた空気で家中の木がさらにあばれ始めます。古建具は亀裂直前、9cmもの厚さのテーブルが反り、クローゼットの扉はねじれ、もうとどまることをしらないのです。

ちょっとびっくりしてしまいますね。昔はエアコンもないですし、そもそもそんなに家が暖まることもなかったでしょうからここまではならなかったのかもしれません。この家どうするんだろう、と思っていると石川さんたちは木を守るために人間がエアコンを諦めたのです。床暖房と加湿器と耐えることでやり過ごします。

すべての再生された古民家でここまで起こっているとは思いませんが、寒さ対策をしても自然素材相手であることに変わりはありません。今後情報収集したいところです。

脂(やに)が降る

るい子さんは寝室、ロフト、二階の床から和室まで、光って粘る液体が落ちていることに気づきます。出所はすべて吹き抜け天井でした。何百年経ても木が生きていることの証ではありますが、家の至る所にネバネバ落ちては困ります。脂の原因はなんだったのでしょう?

  • 屋根構造上、屋根裏(空気の通り道)がない
  • 暖められた空気の行き場がなく結露が脂をともなって落ちる

またも風通し問題です。昔の茅葺き屋根と囲炉裏があれば起こらなかったのか?と石川さんたちは対策に乗り出します。換気口をつけたり、さらに大きなものに取り替えたりと試行錯誤を繰り返しなんと3年。止まったかと思いきや今度は別の場所から落ち始め、ベッドや漆喰壁に茶色い筋ができるようになってしまいます。これまたどうするんだろう?と思っていると、またも暖かさを諦めます。脂が落ち始める朝一番から天窓を開け放つことで脂はついに止まるのです。

真冬の朝、窓を開け放つ勇気、果たして私にあるのか……。本当にこんなことになるの?!と怖気付く夢見る古民家暮らしに怖気付く私、今後ここも情報収集が必要です。

ハチが遊びにきてしまう

これは古民家に限ったことはでないような気もしますが、防虫効果のあるはずの無垢材を使っていてもハチはきます。網戸がすべて取り付けられているはずでしたが、唯一脂対策で活躍した天窓についていませんでした。

私も網戸はすべてつけようと思います……。

常に掃除

「いつ来てもちり一つ落ちていなくて感心しちゃうよ。こういう家だもん、きちんとしてなくちゃみっともないもんね」

ある人からそういわれ、こりゃ大変だと思った。

石川るい子編著 清水康造監修「古民家暮らし私流」飛鳥新社(2002)110頁

そりゃ大変です。確かに古材や古建具、古道具を多く使った家はきれいにしていなくてはただの古くて汚い家になりやすいのですね。るい子さんは家は手をかけてやるほど心地よい空間を返してくれると書いています。

昔の人が絶え間なく拭いて掃いて磨いてを暇さえあれば続けていたからこそ100年以上も次世代に引き継ぐことができました。ここにも引き継ぐ者の意識を考えさせられます。掃除が苦手な私は本当に心配です。

古民家は生き物

この本を読んで古民家はやっぱり生き物だと思った方がいいんだなぁと思いました。人が調子が悪くなる時なにか問題を抱えているのと同じように、一筋縄ではいかないと感じる時家からも物申したい何かがあるのでしょう。

昔の人が毎日100年後の人のためを思って床を磨いていたとは思いませんが、日々の暮らしをあるもののなかで少しでも気持ちよく過ごそうとした積み重ねがあったことは間違いなさそうです。世話する人がパタリといなくなった現代でその途端に朽ちていった家をみると、ひとりでは生きられない生き物らしさをここにも感じます。

また、トラブルが起こるたびに棟梁や設計士たちが見に来ては話し一緒に解決し続けていくのは、なんとかみんなで家の声を聞いてやろうとしているのを感じてとてもいいなぁと思ったのでした。

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